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神戸地方裁判所 平成11年(ヨ)173号 決定 1999年6月09日

主文

一  債務者は、債権者に対し、債権者が本決定送達の日から一か月以内の間、債務者の営業時間内に債務者西宮支店において、同支店貸金庫(契約番号《略》)の開扉を求めたときは、右貸金庫を開扉しなければならない。

二  その余の申立てを却下する。

三  申立費用は債務者の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  申立て

債務者は、債権者に対し、債権者が本決定の日から一か月以内の間、債務者の営業時間内に債務者西宮支店において、同支店貸金庫(契約番号《略》)の開扉を求めたときは、右貸金庫を開扉しなければならない。

第二  事案の概要

本件は、債権者が、債務者に対し、亡甲野花子(亡甲野)の遺言執行者として、同人名義の債務者西宮支店の貸金庫の開扉を求めている事案である。

一  争いのない事実

1 銀行貸金庫契約の締結

亡甲野は、債務者との間で、債務者西宮支店における銀行貸金庫契約(契約番号《略》)(本件貸金庫)を締結した。

2 遺言執行者の指定等

亡甲野は、平成八年一一月一二日、神戸地方法務局公証人山路隆作成にかかる遺言公正証書(本件遺言)を作成し、債権者を遺言執行者に指定した。

3 債権者の遺言執行者就任

亡甲野は、平成一一年四月六日に死亡し、債権者は、本件遺言に基づいて遺言執行者に就任した。

4 債権者の本件貸金庫開扉請求に対する債務者の拒否

債権者は、遺言執行者として、債務者に本件貸金庫の開扉を請求したが、債務者はこれを拒否している。

二  争点及び当事者の主張

1 債権者は、本件貸金庫の開扉請求権を有するかどうか。

(債権者の主張)

債権者は、本件遺言により、遺言執行者に指定されており、預金の払い出し、不動産の売却等一切の遺言者の遺産を管理処分する権限を与えられており、その遺産の配分までが遺言執行の範囲となっているのであるから、本件貸金庫の内容物を含めた遺産を管理し、その必要に応じて解約、換金等する権限を有しているのであって、右任務遂行の前提として、本件貸金庫の開閉権も有するものである。

(債務者の主張)

本件遺言は、亡甲野の不動産及び預貯金という特定財産に関するものであるから、債権者の管理処分権も右特定財産に関するものに限定され、債権者は本件貸金庫の開閉権を有しない。

2 保全の必要性

(債権者の主張)

債権者は、債務者を被告として、債権者が本件貸金庫の開閉権限を有することの確認等を求める本案訴訟の提起を準備しているが、本案判決を待っていたのでは、本件貸金庫内の内容物の確認ができず、迅速な遺言執行が妨害され、財産目録の作成、財産管理処分に相当の大きい支障をもたらしかねず、関係者の重大な財産の損失、減少を招きかねない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

本件遺言は、亡甲野所有不動産(西宮市《番地略》、宅地、一六八・五九平方メートル。同所《番地略》、家屋番号《略》、木造瓦葺平家建、居宅、床面積六〇・四六平方メートル)の売却代金及び預貯金の解約によって得られた金員を、乙山太郎外六名に遺贈し、遺言執行者に対する報酬及び諸費用を支出した残額を、葬儀に出席した相続人である兄弟姉妹及び丙川松子に平等に相続させ又は遺贈するという内容のものであって、文言上は、右不動産及び預貯金のみに関するものである。

しかし、預貯金については、預入金融機関、口座番号等が特定されていない。また、《証拠略》によれば、亡甲野には戸籍上子供はなく、自宅である右不動産に一人で暮らしていたこと、自宅には、三通の銀行預金通帳及び郵便局の総合通帳が保管されていたが、自宅の権利書は存在しなかったことの各事実が一応認められ、右不動産及び預貯金以外の相続財産の存在を窺わせる事情は存在しない。右によれば、本件遺言は、亡甲野の全財産を右認定のとおり包括遺贈したものであると解するのが相当であり、債権者は、遺言執行者として、本件貸金庫の開閉権を有する。

二  そして、《証拠略》によれば、債権者主張のとおり保全の必要性が一応認められる。

したがって、債権者の本件申立ては理由があり、事案の性質上、債権者に担保を立てさせることは相当でないから、よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 近藤猛司)

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